「九州の味とともに」
守り伝えられてきた九州の郷土料理


野菜や季節の花で
彩られる
固くて大きくて
素朴な味わいの豆腐
菜豆腐
宮崎県の山間に位置する椎葉村。遠い昔、壇ノ浦の戦いに破れた平家の武者たちが隠れ住んだほど静かな所。『菜豆腐』は、お祭りや冠婚葬祭など、人が集まる時に家庭で作られていた椎葉の郷土料理。豆乳に刻んだ野菜などを入れて固めた豆腐である。水をしっかりしぼるため固めであること、1丁が通常の豆腐の2丁分にあたるほど大きいことも特徴だ。
大豆が貴重だった時代、少しでも大きな豆腐にするために、野菜などを入れていたのだと言われている。昔からよく使われていたのは『平家カブ』の葉。『平家カブ』は寒さに強く、道端に自生するほど生命力のある植物だ。この地に豊富にあるものを椎葉の方々は上手く利用していた。苦みを持った葉のゆで汁は、ニガリの代わりとしても使っていたようだ。
春先には菜の花の黄色い花やつぼみを入れたり、5月には紫色の藤の花を入れたり…春の菜豆腐の彩りは特に美しい。その他、大根、人参、ユズ、最近ではパブリカなど、現在では様々な素材も入れられている。
そのままでも旨いが、醤油をかけたり、柚子みそをつけたり、型崩れしないので煮しめにしたりと食べ方は様々。素朴な菜豆腐の味わいは、椎葉村そのものを表しているようだ。
椎葉村
平家を追っていた那須大八郎が、最初に陣をかまえたところに椎の葉で屋根をつくったところからこの名で呼ばれるようになったと言われる。かつて盛んに焼畑農業が行なわれており、大豆も焼畑で栽培されていた。
平家カブ
原始的な特徴を持った白カブ。寒さにも強く、やせた土地でも育つことができる。 黄色の花をつけるなど菜の花に似ており、畑の隅、軒先、道端など自生しているものを椎葉村のあちこちで見ることができる。勝手に生えてくるという意味の『ふってカブ』や生で食べると苦いことから『ニガカブ』とも呼ばれている。