「九州の味とともに」
守り伝えられてきた九州の郷土料理


牛骨スープの深みに
ショウガが香る
炭鉱マンに愛された
麺料理
たろめん
佐賀県のほぼ中央に位置する大町町(おおまちちょう)は、戦後の高度経済成長期に杵島炭鉱(きしまたんこう)の炭鉱町として栄えた。この時代に炭鉱マンに愛されていた麺料理が『たろめん』だ。
一見、チャンポンにも見えるが、チャンポンとはまったく異なるもの。スープは牛骨と鶏ガラをベースにしたもので、麺はうどん麺なのだ。具材は、サイコロ状に切った豚の頭肉(かしらにく)、エビ、キャベツ、タマネギ、ニンジン、キクラゲ。そして、すりおろし、またはみじん切りにしたショウガが加わる。具材をラードで炒め、スープを加えて塩とミリンだけで味付けし、麺を加えて一煮立ちさせればできあがり。具材の旨みが溶け出したスープはコクがあってしっかりとしているが、ショウガの風味が広がりさっぱりと食べられる。野菜もたっぷりで栄養満点の『たろめん』を、炭鉱マンは仕事の前後に食べていた。仕事の後は酒のつまみとして楽しむこともあったようだ。
かつて大町町には『たろめん』を出す店があったが、2000年に『たろめん食堂』が閉店すると、町から『たろめん』は消えてしまった。しかし、町の歴史が詰まったなつかしい味の復活を望む声が高まり、町をあげて2010年に復活。現在も、数軒の飲食店で食べることができる。
杵島炭鉱
江戸時代に開発が始まった。最盛期は現在の武雄市、大町町、江北町に全5坑を有した、佐賀県最大の炭鉱。その本拠地であった大町町は炭鉱町として栄えていた。1969年に閉山し、往時の面影を残すのは『杵島炭鉱変電所跡』のみ。1927年に稼働した赤レンガ造りで、現存する唯一の炭鉱時代の建物だ。