「九州の味とともに」
守り伝えられてきた九州の郷土料理


長崎の甘味文化が
伝える
飴色の素朴な
色と味わい
豚角煮
長崎の『豚の角煮』の元は、中華料理の『東坡肉(とんぽーろう)』。鎖国時代に海外と交流のあった長崎に伝わった『東坡肉』の材料や作り方が和風にアレンジされ、『卓袱料理』の一品である『東坡煮(とうばに)』となる。さらに時代とともに卓袱料理の枠からも抜け、それ単体でも食べられる、『豚の角煮』となった。今では、"角煮まん"などの角煮を使った新しい料理も有名だ。
豚の三枚肉を塊のまま茹でて余分な脂を抜く。そして、肉を適当に大きさに切った後、醤油、みりん、砂糖、酒などで作った各店独自のタレで煮込んでいくこと数時間。箸で切れるほどやわらかくなったらできあがり。甘辛い味が中までしっかり染み込み、トロトロとした肉身と脂身が旨い。脂抜きをしているので、さっぱりとした味わいだ。また、昔も今も変わらないのは、三枚肉は皮付きのものを使うということ。コラーゲンそのものともいえる皮は、モチモチとした独特の食感を作り出すことに加えて、栄養価も高い部分だ。
かつて、歓迎やもてなしの意味で卓袱料理には貴重な砂糖が使われていたという。その名残ともいえる『豚の角煮』の甘味を感じながら、当時の長崎に想いを馳せたい。
東坡肉(とんぽーろう)
10世紀中期~12世紀初めの中国王朝『北宋(ほくそう)』の詩人・蘇東坡の名に由来する中華料理。皮付きの豚の三枚肉を使うことは東坡煮(角煮)と同じだが、煮るだけでなく、焼く、蒸すといった調理も行なわれる。また、調味料として、八角(はっかく)などの中華系香辛料や、老油(らおゆ/たまり醤油のような濃厚な中国醤油)を使うことが特徴。
卓袱料理(しっぽくりょうり)
鎖国時代、海外と交易のあった長崎で生まれた。オランダ、ポルトガル、中国の料理をベースに、材料や味を和風にアレンジした料理。朱塗りの円卓を数人で囲んでいただく。『お鰭(ひれ)』と呼ばれる鯛の吸い物から始まり、その後は大皿に盛られた料理を直箸(じかばし)で取り分けて食べるのがそのスタイル。『豚の角煮』をはじめ、『ハトシ』、『ヒカド』など独特な料理も多い。