九州の食探求メディアKyushu Food Discovery Media

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「九州農家めし」

作り手だからこそ知るとっておきの話

八女伝統本玉露生産者

久間さんの「しずく茶」

久間さんの「しずく茶」

薄暗い中で首を曲げて収穫
稲わらで守り育てる艶やかな茶葉

4月末、朝7時すぎ。雲一つない快晴。福岡県八女市の標高300mの山の中にある茶園に、一人、また一人と吸い込まれていきます。茶葉を日光から守るように被覆した稲わらの下では淡緑の新芽が天に向かって葉を広げ、薄暗い中でも艶々と光っています。

茶園の主は久間正大さん。国内外での数々の受賞歴を誇る気鋭の生産者です。この日は年に一度の茶摘み。家族や親戚を中心とした約20名の人の手で摘んでいきます。茶園の天井は高さ1.5mほど。久間さんも稲わらを避けるように首を曲げ、丹精込めて育てた茶葉を確認しながら一芯ずつ摘み取っています。

丸2日かけて約400kgを収穫
旨味が凝縮した一芯二葉のみを摘む

久間さんが就農したのは23歳の時。当初は父親とともに煎茶用の茶葉を育てていましたが、11年前に父子で新たに山を開墾して造った茶園・おぼろ夢茶房で八女伝統本玉露の栽培を始めました。

八女茶の一番茶は4月中旬に摘採(てきさい)が始まり、5月上旬に最盛期を迎えます。八女伝統本玉露は、一番茶のうち先端の一芯二葉(芯とその下の2枚の葉の部分)のみを収穫します。久間さんは、450アールの茶園を管理していますが、そのうち八女伝統本玉露の畑は10アールのみ。収穫できる八女伝統本玉露の茶葉は生の状態で約200kgで、摘採にかかるのは丸2日間。乾燥させると30kgほどになります。

日本一の玉露のカギは
ピーキング
月日を賭(と)して
渾身の玉露を育てる

お茶の世界にはさまざまなコンテストがあります。中でも日本茶で最も権威ある品評会「全国茶品評会出品茶審査会」玉露部門の最高賞・農林水産大臣賞は、目指しても受賞が叶わないことがほとんどの、生産者にとってのあこがれの頂。ところが、久間さんは八女伝統本玉露の生産を始めてわずか3年で農林水産大臣賞を獲得したというから驚きです。

久間さんは、快挙の理由はピーキングにあると自己分析しています。収穫までに茶葉のコンディションのピークをいかに持っていけるか。秋の剪定から土づくり、被覆や収穫時期の見極めと、一年の月日を賭(と)した大仕事です。

一滴に凝縮された甘みと旨み
インパクトのある濃厚な味わい

久間さんは今、一部の畑で有機農法への転換を試みています。有機農法は病害虫のリスクが格段に上がり、管理の手間も増えますが、世界に販路を広げるためには避けては通れないチャレンジです。ゆくゆくはすべての圃場で有機農法での栽培も視野に入れています。

おぼろ夢茶房の茶園は山間部にあるため平野部と比べて朝晩の寒暖差が大きく、茶葉が自身を守ろうと甘味や旨味を蓄えて育ちます。中でも新芽だけを用いる八女伝統本玉露は、茶葉そのものがやわらかく、淹れた後の状態のものを食しても美味。茶葉の甘味や旨味を余すことなく味わえる、そのレシピをご紹介しましょう。

九州農家めしレシピ

久間さんの「しずく茶」

久間さんの
「しずく茶」

食中に喉をうるおす飲料として親しまれている煎茶とは異なり、玉露は少量を口に含んで香りや旨味を楽しむための茶葉です。淹れ方も煎茶とは違い、急須ではなく蓋碗(蓋付きの湯飲み)を使います。少量の茶葉を入れた蓋碗に低温の湯を注ぎ、蓋をして蒸らす。そして、しずくのように垂らして抽出したエキスを味わいます。残った茶葉も生産者の技術と情熱の結晶。好みの調味料で召し上がれ。

材料

  • ・八女伝統本玉露:3.5g
  • ・お湯(40℃、日本のミネラルウォーターを沸かしたもの):13cc
  • ・岩塩やポン酢など好みの調味料

つくりかた

  1. 1

    蓋付きの湯飲み(蓋碗)に茶葉を入れる。

  2. 2

    湯飲みに湯を注ぐ。

  3. 3

    湯飲みに蓋をしてきっかり2分15秒蒸らす。

  4. 4

    湯飲みの蓋をほんの少しずらし、隙間からすするように玉露を一滴だけ飲む。01~04を繰り返し、三煎目まで楽しむ。

  5. 5

    湯飲みに残った茶葉を岩塩やポン酢に付けながら食べる。