九州の食探求メディアKyushu Food Discovery Media

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「九州の食ふしぎ探検記」

九州の食にまつわる驚きや発見を深掘り

特集テーマ

港町・枕崎で作る世界一硬い食べ物本枯節の謎に迫る!

EPISODE 4


山と薪と灰。かつお節の循環物語

かつお節製造に欠かせない燃料
薪をつくる“たきものや”を訪ねる

EPISODE1で“かつおのまち”こと枕崎市を歩いているときに、かつお節工場のそばには必ず大量の薪が山積みされていることに気付いた。

その光景はEPISODE3で訪ねたかつお節工場の「カネタマル」でも同様で、工場内の焙乾(ばいかん)室へと続く通路にも薪が所狭しと並べられていた。代表取締役の松田章三(まつだ しょうぞう)さんは、「どの薪も近隣の山から切り出されたカシやクヌギなどの広葉樹です」と話していた。

これは、まちを案内してくれた枕崎水産加工業協同組合の森暁生(もり あきお)さんの話を思い出させる。枕崎は山と海が近い。市街地の南に東シナ海に面した海岸線が、北には蔵多山を中心として東西に山々が連なっている。森さんはこうも話していた。「枕崎がかつお節の産地となった大きな理由は、地域内で薪を大量に調達できたことにあるでしょう」。

そこで、地域の林業に詳しい南薩地域振興局に、枕崎市周辺で生産される薪とかつお節製造との関係について尋ねてみた。すると、枕崎市の人工林率は32.9%(鹿児島県森林・林業統計2026)で天然林の割合の方が高く、これは“かつお節焙乾用薪“という地域特有の需要が広葉樹林の循環利用を実現させた結果ではないかとの見解だった。もともと、日本には今より多くの広葉樹林が広がっていたのだが、時代とともに、スギやヒノキといった成長が早く建材として売りやすい針葉樹を人工的に植える地域が増えたのだという。しかし、枕崎では広葉樹の需要があるからその必要がなく、結果的に天然の広葉樹林が守られてきたというわけだ。

現在も枕崎市だけで多くの薪需要がある。南薩地域振興局によると、統計上の薪生産量は約7500㎥(鹿児島県森林・林業統計2026)。薪をかつお節工場へ届けているのは“たきものや”と呼ばれる薪生産者で、南薩地域振興局が把握している生産者数は南薩管内で13軒(ただし、各生産者がかつお節工場へと直接納入しているため、正確な実態は不明)だという。

南薩地域振興局に紹介してもらった南九州市を拠点とする薪生産者「沢津橋薪店」は、そのうちの一軒である。連絡すると、ちょうど枕崎市で作業をしているとのことで、私たちの急な取材依頼を快く引き受けてくれた。代表の沢津橋堅(さわつばし かたし)さんはもともと実家の造園業に従事していたが、「腕とチェーンソー1台があればできる」と、たきものやの仕事に魅力を感じ、2013年に「沢津橋薪店」を開業した。

「沢津橋薪店」では南薩地域に限らず鹿児島県内一円の森林所有者から、土地に生えている樹木だけを買い取る“立木買い”をして、木を伐採し、かつお節工場や飲食店、キャンプ場などの取引先へ納入する。「かつお節工場から人気があるのはカシとクヌギ、シイ、タブノキ。樹種を指定する工場もあります」と沢津橋さん。取引先の要望に応えられる品質の薪を出荷するため、木の吟味から加工、出荷まで自社で一貫して行うのがこだわりだという。

木を伐採したり運び出したりするためには山に作業路を作る必要があるし、伐採した木を使い勝手の良いサイズに切り分けたり、コンテナに積み込んだりと、手間も体力も必要とされる仕事だ。

炎天下でチェーンソーや重機を使って作業する様子は、見ているだけの私たちまでも汗だくにさせる。かつお節工場用の薪は長さ53cmに切り揃えて出荷するそうだ。「どの作業も大変ですが、需要に応えられているというやり甲斐があります」と沢津橋さんは目を細める。「それに、私はご飯にかつお節をかけて食べるのが大好きです。好物の味を支える役割を担えるなんて、嬉しいことです」。

地場産業を支える地域の里山
かつお節の未来を育む森へ

次に、私たちは枕崎市の桜山地域にある「かつおぶしの森」へと向かった。森さんが話していた「枕崎には“かつお節作りは山作り”という言葉があり、地域の林業と連携して山の資源を守ることで薪の安定した供給が可能になっている」という話の実態を確かめたかったのだ。

「かつおぶしの森」とは、「トヨタ財団」の助成活動「伝統的な鰹節生産維持のための広葉樹資源確保プロジェクト」の一環として、豊かで住みよい地域社会を実現するために活動する鹿児島市の団体「森と木の研究所」が森づくりを行なった森林の名称である。

「森と木の研究所」の代表理事・大坪弘幸(おおつぼ ひろゆき)さんは、「除伐・萌芽(ほうが)整理など木々を健やかに成長させるための保育作業をモデル的に実施する専用林として造成しました」と話す。「針葉樹は伐採後に根元から枯れてしまうため人の手による植林を必要としますが、広葉樹は切り株や根から新しい芽を出す萌芽能力を持っています。そのため広葉樹林は自力で森を再生できますが、適切な手入れをすることで、さらに再生速度は速くなるのです」。かつお節の製造に欠かせない広葉樹の薪の供給を安定させるためには、伐採を念頭に置いた森づくりが必要との考えだ。

2014・2015年に植栽や芽掻き作業、除伐といった作業を行なった際には、それぞれ約100名の市民が参加。その後の手入れ作業には枕崎水産加工業協同組合も継続的に参加するなど、“かつおぶしのまち”で暮らす人々が広く関わる取り組みとなっている。

「伝統的な鰹節生産維持のための広葉樹資源確保プロジェクト」ではほかにも、たきものやを対象としたチェーンソーの安全講習や、フランスにおけるかつお節生産と広葉樹薪材をテーマとしたシンポジウムを開催するなど、様々な取り組みを実施。

「枕崎の最も重要な産業であるかつお節製造業を支えるものの一つに、地域の広葉樹の里山があります」と大坪さんは断言する。「現在、広葉樹資源が減少しており、たきものやの後継者不足も課題となっています。これらは、かつお節産業にも大きく影響する問題です。プロジェクトを通して、地場産業を支える地域の里山の重要性への理解が進むことを期待しています」。

まだまだ続く薪のストーリー
灰から生まれる鹿児島の郷土菓子

ところで、薪を燃やすと灰が出る。鹿児島の食文化を次世代に継承する活動を行う団体「霧島食育研究会」理事長の千葉しのぶさんは「かつお節の製造で出た薪の灰が“あくまき”作りに利用されていることは、一般的にあまり知られていないかもしれませんねぇ」と柔らかな口調で話す。

あくまきとは、鹿児島県の代表的な郷土菓子で、餅菓子の一種である。もち米を、灰に熱湯をかけ浸出した汁(灰汁)に浸して吸水させ、竹皮で包み、灰汁を加えたたっぷりの湯で数時間煮込んで作られる。灰汁に含まれるアルカリ性の物質がもち米をプルプルとした餅状に変化させ、さらに雑菌の繁殖を抑えるので常温での長期保存が可能となる。本来はもち米の保存食と言える。

あくまきは木灰や竹皮の香りを持ち独特のえぐみを感じる味わいがある。作りたては硫黄臭があるため、2日目以降が好まれることが多い。砂糖を混ぜたきなこや黒糖をまぶして食べることが多いが、酢醤油などをかけることもある。「1600年の関ヶ原の戦いで薩摩の島津義弘が兵糧として持参したといわれており、そうなると約400年の歴史があることになります」。

千葉さんは続けて「何を燃やした灰を使うかによってでき上がりの色や食感に違いが出るのがあくまきの面白いところ」と言う。例えば、みかんの枝を燃やした灰は煮上がるまでに時間がかかるが、えぐみが少なく食べやすい味に仕上がる。色はうっすらと黄色がかった薄い褐色だ。一方、かつお節製造時の木灰を使うと米粒が溶けてゼリーのような食感になり、色は濃いべっこう色となる。

「薪を燃やした灰にも役割があるなんて、素晴らしいことだと思います。かつお節製造に関して、原料を無駄にしない取り組みがほかにもありますよ」と千葉さん。そういえば、枕崎水産加工業協同組合の森さんも「かつお節に使うかつおは、骨や煮汁も調味料などに製品化するため、廃棄する部分はほとんどありません」と話していた。私たちは、再び森さんを訪ねた。

再資源化施設を軸に地域が循環
かつおはどの部位も使い道がある

森さんは私たちを枕崎水産加工業協同組合が管理する「再資源化施設」へと案内してくれた。ここでは、かつお節を作るときに残ってしまう、かつおの頭や内臓、骨などをかつお節工場から集荷し、再資源化するための処理を行っている。

森さんによると、切り落としたかつおの頭から抽出した脂は、DHAサプリメントの原料として出荷される。煮た後の骨を粉砕した魚粉は、鶏や豚の養殖用飼料の原料や、お茶などの農作物の肥料に。煮汁はどろりとペースト状になるまで煮詰められ、養殖魚の飼料となる。

「枕崎のかつお節産業では“使い切る”思想のもと、生産から再資源化までを地域内で完結させる仕組みを構築し、環境負荷の低減と地域産業の持続性向上の両立を図っています」と森さん。1925年の“漁製分離”で分業制に移行する前は、それぞれの工場で骨をすり潰して魚粉にしたり、内臓で塩辛を作ったりしていたそうだ。

分業制に移行した後は、枕崎水産加工業協同組合がその仕事を一手に引き受け、製品化した魚粉や魚油を事業者向けに販売。売上は組合員に還元されており、金銭面でも循環が生まれている。

「組合以外の業者でも、かつお節に使わない部位の身を燻製などのおつまみに加工して販売していますよ」と森さん。EPISODE1で訪ねた観光物産館「枕崎お魚センター」でも、かつおの酒盗や、煮汁を煮詰めたうま味調味料「せんじ」など、様々な加工品が販売されていた。

知れば知るほど奥が深い、枕崎のかつお節の世界。その背景には薪を育てる里山があり、その森を守る人がいる。さらに、かつお節にできない部位も再資源化されている。そこには地域の自然と産業、人々の営みが循環する大きな仕組みが広がっているのだ。次回は別の観点から、かつお節と郷土料理の関係について調査してみよう。


参考文献
寺岡行雄「鹿児島における薪の生産と利用─枕崎市周辺でのかつお節焙乾用薪を中心として─」『木科学情報』19巻1号,2012,一般財団法人日本木材学会九州支部
岡正「日本の食生活全集46 聞き書 鹿児島の食事」1989, 農林漁村文化協会
宮下章「鰹節」2000,法政大学出版局
蟹江松雄、藤本滋生、水本弘二「鹿児島の伝統製法食品」2001,春苑堂出版
枕崎カツオマイスター検定委員会「カツオ学入門」2011,筑波書房
宮内泰介・藤林泰「かつお節と日本人」2013,岩波新書